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『ブルーに生まれついて』(ロバート・バドロー監督) 地の果てをさまようトランペッターのLoveSong チェット・ベイカーに麻薬を渡す人が現れるたびにハラハラした

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 『ブルーに生まれついて(Born To Be Blue)』を見た。1950年代のウエストコースト・ジャズシーンを代表するトランペッターのチェット・ベイカーの映画だ。

 チェット・ベイカーはジャズ界のジェームス・ディーンと呼ばれていたが、麻薬に身を滅ぼし、自身のことを描いた映画の撮影中に暴漢に襲われてトランペットが吹けないような状態にまでなってしまう。しかし、映画の共演者として出会った女性の支えで、愛と償いの機会を模索することに…。

 監督はロバート・バドロー。キャストは、イーサン・ホーク、カーメン・エジョーゴ、カラム・キースなど。

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 チェット・ベイカーは1929年12月23日オクラホマ州イェール生まれで、エル・カミノ・カレッジで音楽を専攻した。チャーリー・パーカーにトランペットの実力が認められ1952年から53年にかけて彼のバンドで活躍した。中性的なヴォーカルにも人気があり、1954年にレコーディングされた「マイーファニーバレンタイン」は代表曲の一つで、この歌い方にジョアン・ジルベルトが影響を受けて、ボサノヴァ誕生の一因となったと言われているそうだ。
 1950年代半ばにはマイルス・デイビスを超える人気を得ていたが、50年代後半からヘロイン中毒になり、トラブルを頻繁に起こし、アメリカ、公演先のイタリアなどで逮捕され、服役もしている。1970年にはドラッグが原因で前歯を折られて演奏を休むことになる。この間は生活保護を受けてガソリンスタンドで働いていたそうだ。
 1973年にディジー・ガレスピーの尽力で復帰し、1975年に活動拠点をヨーロッパに移した。1986年に初来日し、87年にも再来日。1987年からフォトグラファーのブルース・ウェーバーがチェットの自伝的映画『Let's Get Lost』を撮影していた。1988年5月13日、オランダ・アムステルダムのホテルの窓から転落死する。原因は明らかではない。映画は死後、まもなく封切られた。

この映画は、1970年ごろからのチェットのことを描いている。

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 映画は、牢獄で横たわったチェットの前に置かれた、金色に輝くトランペットから足にびっしりと毛のはえた大きなクモが出てくるところから始まる。良くも悪くもぞっとする場面だ。

 そして、軽い感じの「Let's Get Lost」で映画は始まる。半年かけてトランペットをマスターしたイーサン・ホークのトランペットと歌は、かなりいい感じだった。「マイファニーバレンタイン」もよかった。映画館でチェットの曲を聴くものいいものだ。

 当時のジャズ界は黒人が主流なためか、白人のチェットは「坊やはビーチに帰んな…」などと、その能力にもかかわらずに冷たい扱いを受ける。映画の中では巨匠マイルス・デイビスも何度か出てきてチェットに嫉妬や敵意のようなものを示すのには驚いた。

 恋人役のカーメン・エジョーゴは『グローリー明日への行進』にも出演していた魅力的な女優で、チェットを守り、チェットの支えになる。そして、ラストシーンはみごとな演出で、ずしーんとした衝撃を受けた。もう、茫然だ。音楽に魅入られた人間はここまで…。チェットの才能はあるにせよ、ヘロインの力が加わることで、チェットのあのとろけるような魅惑の音楽が生まれたのだとしたら、複雑だ。
 「あいつは若い時に苦労していないからダメなんだ」というようなことを映画の中で仕事の関係者が話していたが、チェットは最初は才能だけで少ない努力で華々しく認められたがゆえに、のちには大きすぎる苦悩を味わったのだろう。

 映画の間中、綱渡りのようなチェットの脱ヘロインの生活で、チェットがヘロインに戻らないかと、チェットの恋人とともに、ハラハラして、疲れた。日常の場所でも、チェットにこっそりと麻薬を手渡す人がちょこちょこと現れるのだ。日本でもあるように、栄光を得た人はそういう危険と隣り合わせなことを映画を見て、実感した。麻薬は、本人の不屈の意志の力でも、周りの人の愛の力でも、てごわくて、見ていて非常に疲れた。この映画は、覚せい剤は怖いということを知らせるという実用的な映画でもあると思った。

 たぶん…映画の中で恋人のことを思って歌った場面があった…と思う。愛情が心にしみる場面だ。

「I've Never Been in Love Before」。今まで恋なんてしたことがなかったのに、今は…、という歌だ。




 ついでに「I Foll In Love Too Easily」も。わたしはあまりにも簡単に恋に落ちてしまう…という歌だ。



 この動画(というか音楽)のつくりは素晴らしい。最初は1958年のもので、2:06からは1988年、亡くなった年の最後の録音のものだ。最初のは声に力があり、得体のしれない浮遊感がある。最後のものは、もう、なんというか、頭がくらくらするような、捨て身で地の果てをさまよった人のような歌い方だ。映画の中でプロデューサーのような人が「技術が落ちた分が味になっている」というが、ヨーロッパのチョコレートのような、うっとりした甘さに、後から胃にくる、濃い味だ。

映画




by tarukosatoko | 2016-12-13 22:53 | 映画 | Comments(0)

本をぺらぺら読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートやタイ・中国などのアジアドラア、生活雑記もあり。


by さとこ タルコフスカヤ