ブログトップ

本読み虫さとこ・ぺらぺらうかうか堂(フィギュアスケート&映画も)

『貧しき人々』 ドストエフスキーの鮮烈な処女作 「わたしにとってかけがえのないワルワーラさん!」

e0337786_19573994.jpg

 新潮文庫の『貧しい人々』の表紙は、フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(1821-1881)の顔だ。この表紙の印象から、難しそうに思えて敬遠していたが、いざ読み始めてみると、手紙形式で、その手紙の内容がとんでもない感じなので、「この人たちどうするつもりなん?」「やばいよ、やばいよ…」と思っているうちに読み終わってしまった。

 最後は、まだ続いていると思って急いでページをめくったら、「解説」のページだったので、「嘘やん!」「こんな状態で終わらないで!」と思った。物語は断崖絶壁のような状態で、バッサリと断ち切られるように終わってしまった。

 ちょうど、カフカの『変身』のような、読後感だ。強引で偏った前提にぐいぐい引っ張られて読んで、そのままに終ってしまったよ…というあっけにとられる話だ。忘れられない。こういうのを名作というのかもしれない。

 出てくるのは、心が貧しいとか、そういう意味ではなくて、本当に、金銭的に「貧しい」人々で、初老の小役人と、薄幸の女性の手紙のやり取りが中心だ。

 小役人のマカールが住むのは、部屋ですらない。間貸しで何人かが住んでいる家の台所を間仕切りで仕切った片隅が主人公の家だ。小役人は人柄や働きぶりはいいのだが、将来を見据えてお金を計画的に使うということをせず、借金を重ねる。持ち物を売り払い、借金もできなくなると、寒いのに外套もなく、ボタンが糸一本でつながった状態の、すりきれた洋服しかなくなり、靴の底もとれてしまう。

 窓からは、若い女性ワルワーラの部屋の窓が見える。女性は幸せな子供だったのだが、肉親を悲惨な形で次々と失い、悪い知り合いに利用されたあげく、身寄りも家もない状態に陥る。遠い親戚ということで、マカールの援助で、なんとか暮らしている。病弱で、手仕事で生活をしているが、しばしば体調をくずして寝込んでしまう。そして、いやらしい爺さんが「妻にならないか」と声をかけてくる。

 手紙の中には、ルーブルやコペイカなどの単位の、細かいお金の数字がたくさんでてくる。二人ともが無一文になったときに、ボタンがついにとれてころがる場面、そして、100ルーブルが手に入ったときには、他人事とは思えないくらいほっとした。しかし…


 ここで、ワルワーラがプーシキンの『ベールキン物語』をマカールに貸し出すところがある。マカールは物語の中の『駅長』が気に入って、感想をつらつらと手紙に書く。切迫した状態なのに、呑気に感想を書いている。ゴーゴリの『外套』の感想も、マカールの手紙の中にでてくる。ちょうど、プーシキンの『ベールキン物語』を読んで、おもしろいなと思っていたところだったので、共感できたのはうれしかった。

 これはドストエフスキーの処女作で、この作品によって無名の文学青年だったドストエフスキーは一躍ペテルブルグの文壇の新星として華々しくデビューした。一人の詩人は、この作品を読んで「新しいゴーゴリが現れた」といったそうだ。

 わたしはごろごろしながらだらだら読んだが、読後は正座して、すごい作家だな…と思った。






by tarukosatoko | 2017-05-09 21:32 | | Comments(0)

本をペラペラ読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートや映画、生活雑記もあり。

by タルコフスカヤ・さとこ
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31