『チーム・ブライアン300点伝説』(ブライアン・オーサー著) 思考・言語能力とユーモア 戦略は今もGOE(技の出来映え)とPCS(演技構成点)

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 羽生選手がどんな状態なのか、まったくわからないで五輪が始まってしまったとき、ブライアン・オーサーコーチはインタビューに答えて「結弦を甘く見てはいけない」と言った。オーサーの言葉通り、羽生選手は、注目が集まる練習で、以前よりも美しくなった滑りを見せた。やっぱり羽生選手は格別だなと思った、というより、さらにうまくなったんじゃないかなと思った。休んでいた選手の演技は、美しいことが多い。そして、羽生選手は、翌日の練習で、4回転サルコウやトーループをとび、さらに4回転ループもとんだ。

 この本を読んで、わたしはオーサーコーチこそ、「甘く見てはいけない」と思った。一途でがむしゃらな羽生選手がここまで来たのは、オーサーコーチのコントロールの力も助けになっている。わたしたちが羽生選手に対して感じていることをオーサーは同じように感じて、羽生選手が最高のかたちで結果を出せるような軌道修正をうまくやってのけている。とても合理的で、とても柔軟で、とても我慢強く、とてもわかっている!

 2014年3月の世界選手権が終わったあと、オーサーコーチは羽生選手とフェルナンデス選手に「さあ、次のオリンピックに向かって準備するぞ、あと4年だぞ」といったそうだ。「ぼんやりしていたら、気づいたら今日はオリンピックだ!みたいになるぞ」と言ったそうだ。そうなのだ、今日はオリンピックで、もうすぐ羽生選手やハビエル・フェルナンデスが滑る!

 「さあ、気を取り直して、前に進もう」。コーチがクリケットクラブの選手たちにかける言葉はピンポイントで的を射ている。『オーサーメソッド・最大の効果をあげる教育理論』みたいな本を作れるぞ…。あったら、わたしも読みたい…。

 「この気持ちを忘れないように。今日リンクに足を踏み入れた時の気持ち、滑っている間に受けた感じを大切にして、この感動を胸に刻んでおくんだ、これが人生の宝になる」(2015年のNHK杯)。オーサーには優れた言語能力、思考能力、そしてユーモアとどんな緊急事態にも最良の対応をできる洗練された能力がある。それはオリンピック二度の銀メダリストという輝かしい実績と経験にも裏付けされている。

 解説では「チーム・ブライアンの強さは関係者やメディアの誰をもうならせるものだった。強さの源は二つ。戦略面ではオーサーによる徹底的な採点方法の研究と、コンディション調整への綿密な計画だ。精神面では、コーチや選手全員をひとつのチームにまとめて試合に臨むことで選手の心に安定と強さを育む、オーサー流コミュニティの強さだった」

 オーサーの戦略の中心は、GOE(技の出来栄え)とPCS(演技構成点)だ。はっきりと書いている。バンクーバーから変わらない。難しいジャンプを入れるだけでは加点が小さく、それに連動する演技構成点もあがらない。耳にたこができるくらい聞いてきたメソッドだってばよ。と、言葉がへんになってしまうくらい、その話は聞いたし、その恐るべき成功も見てきた。

 「シーズンオフにはジャッジやテクニカルスペシャリストをクリケット・クラブに招いて、プログラムやジャンプ構成について意見を聞きます。ステップやスピンをでしっかり「レベル4」を取れるようにチェックしてもらいます。シーズン中は試合ごとにジャッジたちにスコアシートを見せて、採点の理由を聞くこともあります」。そうなのか、そこまでしているスケートクラブはどれだけあるのだろうか。そこまですることが強さのもとなのだろう。

 ユーモアを感じたのは「私はユヅルのモチベーションを疑うときすらありました。4回転ループの成功にこだわるのは「自分の限界に挑戦する」ためではなく、「他の選手が4回転フリップや4回転ルッツを跳ぶから」ではないか、と。それでは目的意識をうしなってしまいます」。

 羽生選手のかけがえのないがむしゃらと、オーサーコーチの冷静な計算と。本では、4回転を練習することに付随する怪我の危険性を繰り返し指摘していた。その危険が実際に起こり、それをぎりぎりのところで乗り越えた羽生選手とオーサーコーチの健闘を祈る。

ウィンタースポーツ

つぶやき









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Commented by mo8_a29 at 2018-02-20 15:31
やっぱり クリケットクラブは 一流といわれているくらいだから 事前にジャッジの話を聞いたりして調査してるんですね。それで選手たちを教育して練習させているんだ。作戦が秀逸なんでしょう。先生としても良いモチベーションをあたえてくれるんでしょう~
なるほど~オーサーメソッド。
それにしても キム・ヨナとかフェルナンデスとか羽生結弦とかすごい選手が集まったものですね。
Commented by tarukosatoko at 2018-02-20 23:02
> mo8_a29さん
事前にジャッジにそういう働きかけをしてもいいのですね。
禁止されていないからいいのでしょうね。
考えたら一番確実で的確な情報収集です。
確実な対策を立てることもできます。
しかし、同じことを他のコーチがいっせいにしたら、一体、どういうことになるのでしょうか。

本当に、この3人はみごとにメダリストになりました。
今後、採点方法が変わったら、オーサーコーチもそれに沿って方針を修正していくのでしょう。そのあたりも、これからの変化に興味津々です。
by tarukosatoko | 2018-02-16 11:34 | フィギュアスケート | Comments(2)

本をペラペラ読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートや映画、生活雑記もあり。


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