映画『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』 トリプルアクセルジャンパーの複雑物語と1991年の神演技動画&Dancing With The Sters2018

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 女子で初めて公式戦でトリプルアクセルを成功したのは、我らの伊藤みどり(1988年)だ。二番目が、この映画のトーニャ・ハーディング(1991年全米選手権)、三番目は中野友加里(2002年)、4番目はロシアのリュドミラ・ネリディナ(2002年)、5番目で何度でも何度でも長期にわたって挑戦し続けた浅田真央(2004年)、6番目がロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ。以後、紀平梨花、長洲未来と続く。
 ロシアのジュニア選手のトゥルソワやシェルバコワは4回転ジャンプをするが、トリプルアクセルはしていない。

 トーニャ・ハーディングは世界で2番目、アメリカでは初めてトリプルアクセルを成功させた。輝かしい記憶に残る選手になるはずだったのだが、人々の記憶に残っているのは、1994年の全米選手権でのナンシー・ケリガン襲撃事件のほうがはるかに大きい。

 1994年リレハンメルオリンピックの選考会になる全米選手権の会場で、練習を終えたライバルのナンシー・ケリガンが何者かに膝を殴打されて負傷するという事件が起こる。ケリガンは試合を棄権し、ハーディングは優勝した。
 事件発生から2週間後、ハーディングの元夫(1990年に結婚し1991年に離婚)が逮捕された。元夫の知人が実行犯だった。オリンピック後にハーディングも犯罪に関係していたという罪を認め、3年間の執行猶予、500時間の奉仕活動、罰金を16万ドルを払った。また、公式大会出場権やコーチになるための権利を剥奪された。

 リレハンメルオリンピックの結果は、ウクライナの16歳のオクサナ・バイウルが鮮烈な優勝をとげたので、ケリガンの銀メダルもかすんでしまった。オクサナ・バイウルはフリーの公式練習中に他選手と衝突して足を3針縫う怪我をしたが、痛み止めを打って演技した。ハーディングはフリーで靴紐の不具合があり、演技途中で泣き出して訴え、演技をやり直すというアクシデントが起こった。このアクシデントだらけの五輪に出場した日本人女子選手は5位の佐藤有香と18位の井上玲奈だった。

 その後、ハーディングは格闘技をしたり、恋人への暴行で逮捕されたり、元夫にプライベートなビデオを暴露されたりと、優雅なフィギュアスケートとは正反対な不可解なイメージだけが残った。そもそも、離婚した元妻のために、元夫が知人に頼んでライバルを襲撃するというのがわからないし、あまりにも露骨で短絡的だ。


 そのような疑問に(今頃になって)答えてくれたのが、この映画だ。

 映画ではハーディングの母親の暴力と暴言が、ハーディングの暴力と虚言と苦しみに満ちた人生を作り出してしまったという印象が強いように作られている。そして、アメリカの格差社会での下層労働者が富裕層の子供のスポーツであるフィギュアスケートの世界にはいったことのひずみが事件の根底にあることも示している。

 ハーディングは母親の4度目の夫との間に生まれた、5番目の子供だ。幼いときに父親が出て行ってしまい、耐えがたいほどの横暴な母親のもとで殺伐とした生活をして、スケート練習をしいられ、結果だけは着々と出していく。フィギュアスケートはお金持ちの人たちのスポーツで、母子家庭で母親がレストランでウエイトレスをしているハーディングは特殊だった。まだ父親がいたときのことだが、コーチに毛皮のコートを着るように言われて、うさぎを銃でうってつかまえては皮を剥いでミンクのコートを作った場面はびっくりした。

 また、母親と同じような暴力をふるう男性と結婚してしまい、暴力を受けても離れることがむずかしい場面はいいようがなくもどかしく愚かしくて、「いくら自分がいいと思っても、結婚相手や恋人は客観的な目で見ることも大事だ」と、さめざめとした気持ちになった。
 また、夫が、いつもジャンクフードを食べている虚言癖があるらしい友人に危険な話を持ちかけられて言われるままに同意してお金を払うのを見て、「誰とでも友達になるもんじゃないし、相手の様子がおかしいと感じるくらいの危機感は持たないと…」と、あきれた。
 また、最後には母親にも愛情があることを実感できるのかと思ったが、母親は映画の最後でもとんでもない行動をしてハーディングだけでなく、観客をも激しくがっかりさせた。どこまでも理解に苦しむタイプだった。笑ってしまうほどに、我が道をゆくひどい母親だった。ハーディングは今は母親と連絡を取り合っていないのだそうだ。

 確かにハーディングは同情に値する面がある。しかも味のある人だ。しかし、難しい…。

 ということで…、感じたのは、フィギュアスケートの芸術的観点が、経済的かつ文化的な豊かさの中から生まれた感受性や雰囲気や行動を元にしているらしいということだ。野球とかバレーボールなどの球技や陸上競技では関係がないものだが、経済力の支えから生まれる品格が必要だとされるところが、そうは言ってはいないが、フィギュアスケートの演技構成点にも、わからないようになったが実際にはあるのかもしれない。品格ということならば、フィギュアスケートだけではなく、剣道や相撲などにはあるが、性質が違う。

 技術点と芸術点のせめぎ合いは、このころからあったのだ。

 トーニャ・ハーディングのトリプルアクセルを見てみたい。1991年のアメリカ大会。


0:10 メドヴェデワやザギトワのようにスピンから始まる珍しい構成
0:43 特大のトリプルアクセル!
1:02 3Lz
1:36 曲調が変わる
2:24 3Lo
2:52 イナバウワーからの3F
3:16 曲調が変わる
4:39 技術点で満点の6点が!
5:17 芸術点も高い

 オリンピックの演技も見たのだが、1991年のこの演技が最高の演技なのではないかと感じた。すばらしく魅力的な演技だ。伊藤みどりのような、今でいうと調子がいいときのガブリエール・デールマンのような、弾丸系の爆発的なジャンプがすばらしい。






 そのトーニャ・ハーディングが今年のDancing With The Stersというアメリカのテレビ番組に出演していた。バトルでは同じくトリプルアクセルで名を残す長洲未来に勝って、またしても一部では批判が出たり、物議を醸したそうだ。

 

2:05 ダンスが始まる 宇野昌磨の昨シーズンのエキシビションと同じ曲だ。
3:20 ぐるぐる回るのがきれい
3:42 涙、そしてスタオベ

 ダンス技術はわからないけれど、年齢をへた人の思いのこもったダンスは心を打つ。

ウィンタースポーツ

つぶやき







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Commented by mo8_a29 at 2018-05-20 11:14
見たんですね!『アイ・トーニャ』アメリカの社会の・・・強い階層社会ですね。確かにそこに組み込まれるとフィギュア・スケートがしにくくなったり…しかしそれにしても虐待とか暴力とかそういうものとあまりにも密接でどんよりしました。
そういえば ご存知でしょうがオクサナ・バイウル選手は、ご両親が早くに亡くなりコーチにお世話になりながら技術や表現を磨いたようで 早く一人前になりたかったようですね。優勝後すぐプロになりましたものね。その彼女もすごい毛皮のコート着ていましたね。(コーチの全面バックアップでしょうか。)
伊藤みどりさんが「私の現役のころは スケーター同士の仲はあまり良くなかったですよ。むき出しの敵意ですよ。」なんて言っていたけれど。。
確かに競技のフィギュア・スケートは当事者以外見えないスポンサーとか支援者が複数あってひとりのスケーターを支えているのでしょうと思いますよ。それがハーディングには無かったのでしょうか。ブログにも書きましたが、本人が不当に低い点数をつけられ詰め寄ると…ジャッジが「あなたには、アメリカの理想の家族が無い。」と言われていて再びどんより。食事もまるで工業製品を流し込むようで…冷凍した同じメーカーのパイ?をレンジでチンして…あれでアスリートとして栄養が足りているのか不思議でした。調理しているところもないし、食事を楽しんでいる風もない。
アシュリー・ワグナーも、ウエイトレスして資金を捻出したりしていたと聞きますし 日本のスケーターは根幹がもしも続けられなかったなら…町田くんが「Bプランを持て!」というように柔軟性を持てるように学歴を付けたりしているのだろうけれど。。。
ハーディングは 高校も卒業していないし運動能力が卓越していたからBプランがボクシングとかプロレスだったようですが。あるいは、ダンスでしょうか。
一生懸命だけれど 階層に絡め取られている感じがします。
あの 愛の無いお母さんも。。。。

Commented by mo8_a29 at 2018-05-20 11:24
あの~~ PIW滋賀公演の tarukosatokoさんの感想を楽しみにしています!!
Commented by tarukosatoko at 2018-05-22 15:20
> mo8_a29さん、トーニャとかトーニャのお母さんとか、夫とかその友人とか、何を考えているのかわからなかったです。なぜって思う自分は、経験が少なくて、年をとっていても、理解できない狭い人間なのだと思いました。
実生活でも何を考えているかわからない人に出会うことはあって、たいていは、自分の力では背負いきれない傷を負っていて、そこで固まってしまったような事情があるように感じます。心が光に向かうことを拒否したような。

バイウル選手もそうでしたか。優勝後、いろいろ精神的にひどいことになっていたのも、そんなことがあるのでしょうけれど、今はいい状態だと読んだような。

フィギュアスケートではないですが、作家の川端康成も『葬式の名人』という文章を書いているように、次々と身内が亡くなって、幼い頃から転々として、そのバックボーンがあって、あの繊細なガラスのような美の世界を生み出したそうです。とはいえ、貧しくはなかったから、美意識を持てたのでしょう。

階層にからめとられるというのは、悲しいし、心底悔しいことですね。非常に悔しいことだと思います。今だって、そういう時代です。

ただ、階層とか逆境をしのぐ馬鹿力のようなものを発揮したら、6位とか7位とかではなくて、当然のように1位や2位になる頂点に立つトップ選手になるのだと思います。むしろ、家庭的に環境的に恵まれている選手は、上り詰めることが難しかったりします。
Commented by tarukosatoko at 2018-05-22 15:28
> mo8_a29さん、すごく楽しかったです。本当に行ってよかったです。
不思議な話なんですが、同じ席のチケットが二枚あるというトラブルがあるそうで、万が一そのときは、教えていただいたGAKUONから購入した人が優先なのだそうでした。安い席だったのですが、すごい前で、感激しました。また、GAKUONで購入しようと思います。
PIWはショートサイドが正面なので、反対側のショートサイドが一番いい席なのだとわかりました。一度はそこで見たいです。
by tarukosatoko | 2018-05-20 00:31 | 映画 | Comments(4)

本をペラペラ読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートや映画、生活雑記もあり。


by タルコフスカヤ・さとこ
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