本をぺらぺら読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートやタイ・中国などのアジアドラア、生活雑記もあり。
by さとこ タルコフスカヤ
世界ノンフィクション全集27 「神との結婚・ヴァスラフ・ニジンスキーの生涯」(ロモラ・ニジンスキー著)ロダンとコクトー本人が少し出てくるし、ニーチェやトルストイのことも出てくる
ニジンスキーの妻、ロモラ・ニジンスキーが書いた「神との結婚」を読んだ。昭和37年に出版された古い本を図書館でかりた。古い本は字が小さくていいまわしになじみがなかったりして、読みにくい印象があるが、この手記はとても読みやすかった。
難しいことは書いていない。手記の中にでてくるニジンスキーの言葉の一部を書き出してみる。
「他の人々は死んでいく人もあれば、もっと苦しんでいる人だっている。ぼくは自分の魂の中に自分の芸術を持っている。何者も、誰も、それを奪い取ることは出来ない。僕たちは幸せを自分たちの内部に持っている。そしてその幸福はどこへ行こうともぼくたちから離れはしないんだ」
「人間はどんなときでも自分を主張する権利を持っている。君は僕を愛し、ぼくに忠実であることを誓った。しかしどうして激情に押し流されないと約束できるだろう。ぼくよりももっと愛している人に会ったなら、すぐにぼくのところに来て話さなければならない。もし、その人が君の愛を受けるにふさわしい人なら、ぼくはどんなことでもしてあげよう。結婚したからといって、自由を束縛されたなどと考えるのはいけないことだよ」
「円は完全な、欠けるところのない運動の軌跡なんだ。すべてのものはー生命、芸術、そして特に舞踊はーそれにもとづいている。それは完璧な線なんだよ」
(いくつもの円を組み合わせて人間の顔を描いたりしていたそうだ)
「これ以上の幸福を望んではいけないよ。君よりも不幸な人たちのことを考えて、君の運命を感謝しなくっちゃね」
「君は考えながら滑っている。心で感じるままに滑らなくちゃ。頭で考えて滑るのは間違っているよ。芸術の創造と同じように、生命と、自然と同じようにね」
(スケルトンという氷を滑る競技の話で。アルプスの斜面に作られた危険なカーブがいくつもある狭い氷の滑走路を鋼鉄製の乗り物の上にうつ伏せに横たわって滑る競技)
「今日は、僕の神との結婚の日なんだ」
(発狂する前のリサイタルの前に)
「これから私は戦争を踊ります。その苦しみを、その破壊を、その死を。あなたがたが反対しなかった戦争、それゆえにあなたがたも責任がある戦争を」
(舞踏室での公演で)
この手記によると、ニジンスキーは純粋なまっすぐな人だ。そして、舞踊を記録に残すため、音楽の楽譜のようなものに変わるものを編み出そうとしていた。膨大な量の絵もかいたし、衣装を考えたり、子供と一緒に踊ったり、舞台装置を考えたり、振付けを考えたり、創作することに労をいとわないだけでなく、生活面でも掃除や子供の世話など、よく動く人だったようだ。
女性と結婚したニジンスキーへの嫉妬と怒りから、恋人だったディアギレフがニジンスキーの向かう先向かう先で邪魔をして、嫌がらせをする。ニジンスキーが発狂したのちにディアギレフは「自分のせいだ」と悔いたということだが、手遅れだった。
この手記には歴史上の人物が生きた人として出てくるところも興味深い。
ニジンスキーが振付けをした「牧神の午後」はその内容からひどいバッシングを受けるが、彫刻家のロダンは絶賛したのだそうだ。ロダンが生きている時代だったのか!
詩人のジャン・コクトーが出てきて、ディアギレフの肩を持って、ニジンスキーを軽蔑したようにふるまう場面が1行だけあって、「うわっ、コクトーって嫌な人だったのか…」などと思った。そのくらいディアギレフは影響力が強い人だったようだ。
あと、ニジンスキーが精神のバランスを崩したころに、複数の人が「ニーチェのときとそっくりだ」と発言する。この時代の人は生きたニーチェと接していたのか!と、これまた、驚く。
ニジンスキーの精神の病気が確定しかけたころには「トルストイと同じこと(十字架を身につけて、道行く人に教会に行くように話しかける)をしているから精神状態が危険なことになっている」と周りの人が何度か指摘する。トルストイもか…。
完全に精神の病気だと確定すると突然ニジンスキーは病院に強制的に連れて行かれてしまう。そして、完全に意識が混濁してしまう。その後、何年も後になって意識が戻ったこともあったようだが、踊ることはなかったという。
解説は白井浩司さん⬇一部を。
この本には、ドストエフスキーの妻が書いたドストエフスキーの回想録も入っている。そんな貴重なこの本だが、昭和37年、この本は290円だった。今だと、いくらくらいなのだろうか?
by tarukosatoko
| 2018-11-13 20:49
| 本
|
Comments(2)
Commented
by
mo8_a29 at 2018-11-14 16:37
とても 興味深い本ですね。昭和37年 ノンフィクションという言葉ができた頃でしょうか。
ニジンスキーの生まれとか、ダンサーとしての才能とか・・・
『牧神の午後』は、傑作だったようで しかし 当時では問題作で・・・
活躍した頃に登場する ロダンの絶賛 とか ジャン・コクトーの意地悪
ディアギレフの嫉妬とか 発狂してしまうニジンスキーに最後まで尽す奥さん。いろいろ書かれていて 昭和37年だけど290円だったのですね。ちょっとびっくり。
少し 読ませていただきありがとうございます
(^o^)
近所の図書館に行ってみようかと思いますよ。
ニジンスキーの生まれとか、ダンサーとしての才能とか・・・
『牧神の午後』は、傑作だったようで しかし 当時では問題作で・・・
活躍した頃に登場する ロダンの絶賛 とか ジャン・コクトーの意地悪
ディアギレフの嫉妬とか 発狂してしまうニジンスキーに最後まで尽す奥さん。いろいろ書かれていて 昭和37年だけど290円だったのですね。ちょっとびっくり。
少し 読ませていただきありがとうございます
(^o^)
近所の図書館に行ってみようかと思いますよ。
0
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by
tarukosatoko at 2018-11-14 20:41
> mo8_a29さん
この本は布張りで、堅苦しさのある全集本なのですが、そんな本の題名に「ノンフィクション」というのは軽い言葉だなと感じていました。昭和37年には「ノンフィクション」という言葉の響きが、重みがあって新鮮だったのですね。そっかーーーー!
この本は興味深い内容でした。そもそも、奥さんのロモラは、貴族か何かの令嬢で、舞台か何かでニジンスキーを見て好きになり「あの人と結婚する」と宣言して、そこからバレエを初めてバレエ団に入団して、ニジンスキーに近づいて…、そしてみごと結婚してしまったんです。本来ならバレエ団で出演もできそうになかったのですが、南米公演に行きたがらない団員が多かったので参加できて、そして船の上でアピールして…。
でも、最後まで尽くしたところが立派ですね。
「牧神の午後」は、内容はどうなのかなーと、わたしも思います。トゥクタミシェワのエキシビションもそうなんですが、賛否両論がある作品だというのはわかります。
ピュアで奇抜で美しいニジンスキーのバレエを、見てみたかったです。
この本は布張りで、堅苦しさのある全集本なのですが、そんな本の題名に「ノンフィクション」というのは軽い言葉だなと感じていました。昭和37年には「ノンフィクション」という言葉の響きが、重みがあって新鮮だったのですね。そっかーーーー!
この本は興味深い内容でした。そもそも、奥さんのロモラは、貴族か何かの令嬢で、舞台か何かでニジンスキーを見て好きになり「あの人と結婚する」と宣言して、そこからバレエを初めてバレエ団に入団して、ニジンスキーに近づいて…、そしてみごと結婚してしまったんです。本来ならバレエ団で出演もできそうになかったのですが、南米公演に行きたがらない団員が多かったので参加できて、そして船の上でアピールして…。
でも、最後まで尽くしたところが立派ですね。
「牧神の午後」は、内容はどうなのかなーと、わたしも思います。トゥクタミシェワのエキシビションもそうなんですが、賛否両論がある作品だというのはわかります。
ピュアで奇抜で美しいニジンスキーのバレエを、見てみたかったです。
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