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『戦場のコックたち』(深緑野分・著) 17歳の特技兵(コック)が体験した戦争 & 「好きなこと」が力になる



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 読み始めてすぐに、著者の名前は漢字だがアメリカ人なの?翻訳物なのかな?と思って、著者のプロフィールを見たところ、日本人女性だった。とてもいきいきしたすがすがしい文体が好きだ。文庫本で2.2㎝の厚さの長編。17歳の主人公が戦争のまっただ中で戦っていくうちに心身が変容していくさまが、よく伝わってきて、最後はトルストイ『戦争と平和』のミニ版のような、「戦争が人間にもたらすものは、とどまることがない不安と恐怖、癒えることがない傷なのだ」とじわじわと心に迫ってくるものがあった。それでいて、主人公が若いこともあり、傷ついても人とのつながりで生きていく強さも伝わってくるいい小説だった。

 ルイジアナ出身の17歳のティムは合衆国陸軍の特技兵(コック)として、1944年ノルマンディ降下作戦で初陣を果たす。ヘリコプターからパラシュートをつけて飛び降りて敵地に入って戦う、とても危ない任務だ。でもティムにはコックという任務もある。子供の頃から料理が好きで、祖母の料理帳を持って戦争に向かい、戦闘に参加しながら炊事をこなす。個性的な仲間達と支え合いながら、戦地で起こる出来事の謎を解いていく。料理場面を期待していたので、戦争中に兵士が前線でどんなものを食べているかは、おぼろげに知ることができた。卵料理などはおいしくなさそうだが、あたたかいものがとてもほっとする食べ物なのだとわかる。でも、中心は料理ではなく、数々の謎の話がメインとなって進んでいく。その謎が、小さいことではないが、ものすごく大きいことでもないので、この小説はこのまま謎解きだけで終わるのかと思ったが、違った。

 小説のすべてがティムの語りで構成されているので、読む者は最初から最後までティムの視点でいられる。視点が完全に定まっているのがこの小説のいいところだろう。だから、ティムが感じ取ったことを我がことのように感じることができた。ティムたちがお世話になった民家が何日か後にはドイツ軍に焼き払われたりして、戦争のひどすぎる残酷さをずしんと感じた。そんな絶望的な状況の中でどう考えどうふるまうか、ティムを応援しながら読んだ。

 物語の最後は戦争終結から44年後のベルリンだ。一本の映画のような始まりと終わりだった。そして、どんなときでも、ティムの料理のように「好きなこと」はその人の力になるのだと思った。自分も、小さいことだが、「浅田真央さんが好き」「フィギュアスケートが好き」がどれだけ日々を明るく、心を強くしているかと、思うことが多い。

 深緑野分という作家の名前もしらず、書店で、表紙の素朴な食べ物の絵にひかれて本を買ったのだが、それがよかった。最近、一人の時間が増えたので、ひんぱんに書店に行くようになった。前もって評判がいい本を読むのもいいが、前知識がなく、書店で、ただパタッと出会った本を読むことは素晴らしい。次は深緑さんの『ベルリンは晴れているか』を読む。これはネットで買った。


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by tarukosatoko | 2020-11-15 09:47 | | Comments(0)

本をぺらぺら読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートやタイ・中国などのアジアドラア、生活雑記もあり。


by さとこ タルコフスカヤ