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ぺらぺらうかうか堂(フィギュアスケート&本&タイドラマ等&雑記)


本をぺらぺら読むのが一番の幸せ。フィギュアスケートやタイ・中国などのアジアドラア、生活雑記もあり。
by さとこ タルコフスカヤ
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『クロイツェル・ソナタ 悪魔』(レフ・トルストイ著1889年) 徹底した極論を示す真面目なトルストイに親しみを感じる & ギドン&マルタの美演奏

『クロイツェル・ソナタ 悪魔』(レフ・トルストイ著1889年) 徹底した極論を示す真面目なトルストイに親しみを感じる & ギドン&マルタの美演奏_e0337786_12453212.jpg

 そろそろフィギュアスケートの全日本選手権だ。全日本選手権といえば、クリスマスそのものだ。クリスマスの小物を出してきたが、ツリーは出さず。

 就寝前にベッドの中で、『クロイツェル・ソナタ 悪魔』(トルストイ)を読んでいた。ロシア文学翻訳といえばこの人、という原卓也さんの翻訳なので、文章が整っていて、奇をてらうところもなく、かといって平板でもなく、たいへん心地いいところが寝る前にぴったりだった。

 内容は、まったく、勝手にして下さいと思うような、でもその誠実さは再発見するところがある…、妻または自分の不倫(未遂)に対する夫側の真摯な葛藤のすえの殺人、という話だった。

 『クロイツェル・ソナタ』は、自らの結婚生活を徹底的に分析して冷笑し、不倫かもしれない妻への疑心暗鬼に右往左往する男性の自分語りを、列車に乗り合わせた人が聞くという形式の小説だ。結婚してからのわだかまり、子供が出来てからの生活の不自然さなどをとうとうと語り、最後は、出張先から妻に知らせずに突然帰宅し、夜中に妻と音楽家が食事をしている部屋に乗り込んで妻を殺傷する。あの上品な男性がいきなり!
 実際には浮気をしていたのかどうかはわからないままに終わる。男性の視点で語られるだけなので、妻が何を思っていたかもわからない。そうなる前に話し合いを!と他人は思うが、話し合いができないままに何年も過ごしてきたから話し合うことは無理。それはわたしの結婚生活にもあてはまる部分があるから、わかる。そうなる前に家出を!と思うが、語り手の公爵は、貴族なのでたいへんなのだろう。そこはわからない。

 妻と音楽家が出会ったころに、妻がピアノで音楽家がバイオリンで合奏したのがベートーベンの「クロイツェル・ソナタ」だった。このドラマチックな曲を合奏することで、二人の心が高まり、二人の恋を確実なものにした曲として描かれている。



 「クロイツェル・ソナタ」の演奏をいろいろ聞いてみたところ、ギドン・クレーメル(バイオリン)とマルタ・アルゲリッチ(ピアノ)のクロイツエル・ソナタがパッションにみちていて素敵だった!いきいきしていて、全く、退屈しない。
 クレーメルは1947年にソビエト(今はラトビアになっている)で生まれ、1980年にドイツに亡命し、73才の今もバイオリニスト・指揮者として活躍しているそうだ。
 アルゲリッチは1941年にアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれたピアニストで、日本では大分県とのかかわりが深く、別府アルゲリッチ音楽祭の総監督をつとめている。2015年には音楽祭の拠点となる「いきいきアルゲリッチハウス」が完成したということだ。79才の今年はコロナウイルス感染拡大のため、音楽祭と来日が2021年に延期された。

 このソナタは、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベンが1803年に作曲したソナタで、ヴァイオリニストのロドルフ・クロイツェルに捧げられたために、この愛称がついた。

 もう一つの小説『悪魔』は、夫である男性の立場から書かれている部分が大半なのだが、今度は妻ではなく、自分の不倫心にあらがえず、そんな〝汚らわしい〟自分への罪悪感で頭がいっぱいになり、果てには自殺する。そうなる前に家出をしたらよかったのに!でも、地主はたいへんなのだろう。
 実際には男性は浮気をしないように妻と旅行したり、浮気をしようとするがすれ違いが続いたので、浮気の気配も事実もなく自殺の原因は誰にもわからず、医師達は精神異常だったと結論付けた。男性は伯父に深刻な様子で相談をしたことがあったが、伯父は軽く受け流し、まるでまともに受け取っていなかった。男性には不倫などはささいなこと、そういう時代だったのだろう。今がどうなのかは、しらんけども。

 小説の最後、「精神異常者の中でもいちばん確実(に精神異常者)なのは、他人の内に狂気の兆候を見いだし、自分の内にそれを見いださぬ人々にほかならない」で終わる。意味深というか、問題を読者に放り投げて終わる、という終わり方だ。



 わかったような、わからんような。
 原卓也さんの解説を読むと、「トルストイは性に関するきわめてストイックな考えと、絶対的な純潔の理想を披瀝している」「性的欲望こそ、人間の生活のさまざまな悪や不幸、悲劇の源である、と考えていた」「彼自身、性の欲望がいかに凶暴であり、人間をあやまらせるかを、みずからの体験で知り尽くしていたからこそ、ここまで徹底した極論を示さずにはいられなかったのである」。そうなんだ…。

 ところで、トルストイの妻は、世界の3大悪妻の一人だ。ソクラテス、モーツアルト、トルストイの妻のことなのだそうだ。トルストイは夫人との不和から家出し、10日後に、1910年、82才で、鉄道の駅長官舎で肺炎で死亡した。

 貴族は、毎日仕事に行って、理不尽なクレーマーに対して総力をあげて上から目線で撃退するような仕事をしなくてもよくて、時間があったのだろう。自分の立場でよく頑張った人なのだろうと思われる。だから小説に今も生命とあたたかさを感じる。

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by tarukosatoko | 2020-12-15 09:40 | | Comments(2)
Commented by mo8_a29 at 2020-12-17 00:20
こんばんは!
トルストイの小説に『クロイツェル ソナタ』というベートーベンの音楽を題名にした作品があったのですね。トルストイは、自分の境遇と思想が乖離しているのが悩みだったんですね。だから 亡くなるときが家出した時だなんて…死の寸前まで悩んでいるとは・・・文豪と言われて尊敬を受けている人なのに若い人みたいだなと思いました。
tarukosatokoさんの選んだ『クロイツェル・ソナタ』の動画 良いですね。良いアンサンブル!
アルゲリッチさんが若くて生き生きしていて素敵な演奏 二人の息が合ってますね。アルゲリッチ音楽祭に行こうかなと昨年くらいに アルゲリッチ オンラインチケット に登録したりしてましたが結局行きませんでした(^^;大分の別府は遠い。今はコロナだし思い立ったときには行動した方が良いですね。
ところでtarukosatoko さんのお仕事はどうやらストレスのありそうな様子…然し 溜めずになにかしら風穴をあけてお過ごしくださいね。
(『愛あるところに神あり』読みましたよ。とても心が落ち着くと思いました。北御門二郎という人の訳であすなろ書房版 この訳者 徴兵拒否した人だそうです。トルストイの非暴力主義の影響で。すごく頑固な人ですね。)
Commented by tarukosatoko at 2020-12-18 10:26
> mo8_a29さんが書かれているように、「文豪と言われて尊敬を受けている人なのに若い人みたい」とわたしも思いましたよ。雲の上の人ではなくて意外と自分と同じ事を考えている、でも自分よりもずっと前を歩いている、そこがトルストイの魅力なのかもしれないです。読者がつながりを感じられる作家なのかな。
『クロイツェルソナタ』は題名も良かったんじゃないかと思います。2作目の『悪魔』も、「月光」とかだったら、もっと名作に感じられたのかもしれないです。
アルゲリッチ音楽祭があることも知らなかったんです。まさか、今年がこんな活動停止の年になるとは思いもよらなかったです。来年か再来年には行けたらいいですね。ほんとうに…、「これからは行けるときに行っておこう」と思いますよね!
仕事は、たいしたことはしていなくて、気楽なほうだと思います。個人営業的な仕事をしていたあとなので、会社という強い庇護のもとで働いているので、ストレスは小さいように思っています。
『愛あるところに神あり』、新学舎文庫で中村白葉訳でした。徴兵を拒否するというのは、筋金入りのトルストイ読者ですね!
今はトルストイの『人生論』を寝るときに読んでいますが、〝論〟はそこまでおもしろくはなくて、小説のほうが読みやすいです。
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